この記事では環境保護への貢献や公衆衛生の維持、資源のリサイクルで重要な役割を果たす産業廃棄物収集運搬業とはどのような業種なのかについてご説明します。また、基本的な役割として収集と運搬、関係する法令についても産廃許可申請のプロである行政書士が解説します。
産業廃棄物収集運搬業とは
産業廃棄物収集運搬業の定義とその範囲
産業廃棄物収集運搬業は、事業活動から発生する廃棄物を収集し、適切な処理施設へ運搬するサービスを提供する業務です。
この業務は、製造業、建設業、医療機関など、さまざまな産業から出る廃棄物を対象としています。産業廃棄物には、金属くず、ガラス片、化学物質、建築廃材、廃油など、多岐にわたる物質が含まれます。これらは、その性質や処理方法に応じて適切に管理されなければなりません。
一般廃棄物との違い
産業廃棄物と一般廃棄物の主な違いは、その発生源にあります。一般廃棄物は家庭や事業所(事業活動以外から発生する廃棄物)から出る廃棄物であり、主に市町村が責任を持って収集して処理します。一方、産業廃棄物は事業活動によって発生し、発生源となる排出事業者が適切な処理を行う義務があります。
専門的な取り扱いが必要な理由
産業廃棄物の中には、有害な化学物質を含むものや、環境に悪影響を及ぼす可能性のあるものが多く含まれています。これらの廃棄物は、人の健康や環境に重大な害を与えることがあるため、専門的な知識と技術を持った業者による適切な収集と処理が必要です。
また、廃棄物の種類に応じて、分別、運搬、処理方法が異なり、これらを適切に実施することで、リサイクルの促進や最終的な廃棄量の削減につながります。
産業廃棄物収集運搬業はSDGsに欠かせない
産業廃棄物収集運搬業は、環境保全と資源の有効活用を目指す上で不可欠な役割を担っている重要な業種です。一般廃棄物とは異なる、産業廃棄物特有のリスクと管理の必要性を理解することは、事業者だけでなく、社会全体にとって重要です。適切な産業廃棄物の管理は、持続可能な社会を実現するため開発目標(SDGs)のターゲットでもあります。
産業廃棄物収集運搬業の法的要件と許可手続き
産業廃棄物収集運搬業は、排出事業者から委託を受けて、産業廃棄物を中間処理施設や最終処分場へ運搬する業務であることは先で述べたとおりです。他人の排出した産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を含む)の収集・運搬を業として行おうとする者は、業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければなりません。 この許可は産業廃棄物を積み降ろしするすべての都道府県で必要になります。
例えば、埼玉県で廃棄物を積み、東京都を通過して千葉県の中間処理施設へ運搬する場合には、埼玉県と千葉県の許可が必要になります。積み降ろしを行わない東京都の許可は必要ではありません。
また、産業廃棄物収集運搬業にもさらに、積替・保管を行うか否かの別、特別管理産業廃棄物を扱うかの別によって許可が区別されます。積替・保管とは、収集した産業廃棄物を直接中間処理施設などに運搬せず、自社の保管施設等で一時的に保管しておくことをいい、まとまった量が溜まってから運搬することになります。「積替・保管あり」で産業廃棄物収集運搬業の許可を取れば、このような効率的な収集運搬ができますが、当然に保管施設を用意する必要があり、許可にあたり事前計画書等を提出し適正に保管が行えるか等、厳しい審査を受ける必要があります。
法的要件
産業廃棄物収集運搬業の許可を受けるためにの法的要件には、以下のようなものがあります。
講習会を修了していること
廃棄物処理法で求められている申請者の能力のひとつに、事業を的確に行える知識と技術を有することがあります。この知識と技術は、公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター(JWNET)が実施する講習会を受講し修了書の交付を受けることで、事業を的確に行える知識と技術を有する者とみなされます。
個人事業主の場合は事業主本人、法人の場合は監査役を除く役員あるいは政令使用人が日本産業廃棄物処理振興センター(JWNET)が実施する講習会を受講し、修了しなければいけません。
JWNETは、産業廃棄物の適正な処理を促進し、環境保全に貢献することを目的とした組織です。このセンターは、産業廃棄物の収集・運搬業者や処理業者に対して、法令遵守や技術向上を目指した講習会を実施しています。
JWNETが実施する講習会は、産業廃棄物収集・運搬業に従事する者が対象で、業務に必要な法律知識、廃棄物の適正な管理方法、環境保護に関する知識などを学ぶことができます。講習は、産業廃棄物処理法や関連する環境法規に基づいた内容が中心で、収集・運搬業務の適正化を図ることを目的としています。
講習会の申込方法と受講料については、JWNETの公式ウェブサイトにてご確認ください。
講習会を修了した受講者には修了証が交付されます。この修了証をもって「講習会を修了した」ことになります。
経済的な基礎を有していること
産業廃棄物収集運搬業許可を取得する際に求められる「経済的な基礎を有していること」という要件は、事業者が財務的に安定しており、産業廃棄物の収集および運搬業務を適切に遂行できる能力があることを意味します。この要件は、事業者が経済的に健全であることを確認し、廃棄物処理業務が中断することなく、継続的に行われることを保証するために重要です。
「経済的な基礎を有していること」の意義
- 責任ある廃棄物処理の確保:経済的に安定している事業者は、産業廃棄物を法令に基づき、環境に配慮した方法で処理するための資源を持っています。これにより、不適切な廃棄物処理による環境汚染や公衆衛生へのリスクを最小限に抑えることができます。
- 業務の継続性:経済的な基盤がしっかりしている事業者は、突発的な経済的困難に直面しても、業務を継続し、契約を履行する能力があります。これにより、廃棄物の収集・運搬サービスの信頼性と安定性が保証されます。
- 投資と改善の可能性:経済的に健全な事業者は、新しい技術への投資やサービスの改善に必要な資金を確保できます。これにより、効率的で環境に優しい廃棄物処理方法の導入が促進されます。
経済的な基礎を有しているかの判断基準は以下となります。
- 利益が計上されていること
- 債務超過の状態にないこと
- 納税していること
具体的には直前3期分の決算書類や納税証明書等を提出し総合的に判断されます。会社を設立して事業が3年未満の会社の場合や債務超過の状態が続いてる場合は、収支計画書や都道府県によっていは中小企業診断士等の専門家の診断書の提出により、経理的基礎を有することを証明していきます。
適切な事業計画があること
この要件は、産業廃棄物の収集および運搬を行う事業者が、その業務を適切に、かつ効率的に実施するための具体的な計画を持っていることを確認するために設けられています。具体的には、収集・運搬する産業廃棄物の種類、その産業廃棄物を収集する予定の地域と運搬先の施設、使用する車両や設備、安全管理策など、業務遂行に必要な詳細な計画を立てることが要求されます。
収集運搬するための施設が整っていること
この要件は、産業廃棄物を安全かつ効率的に運搬するために必要な施設や設備が適切に整備されていることを確認するために設けられています。運搬施設の整備は、廃棄物の適正な管理、環境保護、公衆衛生の確保に直接関わる重要な要素です。
- 適切な車両の準備:産業廃棄物を運搬するための車両は、廃棄物の種類や性質に応じて適切なものを選定し、使用する必要があります。
- 安全装置の装備:車両には、廃棄物の飛散や漏洩を防ぐためのカバーや固定装置など、安全装置を装備する必要があります。また、有害な廃棄物を運搬する場合は、特別な安全措置が求められることがあります。
- 保管施設の整備:運搬前後に産業廃棄物を一時的に保管するための施設も、適切に整備されている必要があります。これには、廃棄物の種類に応じた保管方法や、環境への影響を最小限に抑えるための措置が含まれます。
欠格要件に該当しないこと
この場合の欠格要件とは、産業廃棄物の収集運搬業を行うことが相応しくない者の条件です。対象者は、個人事業主は事業主本人、法人の場合は、当該法人、役員や出資者が対象で、決壊要件に該当する場合は許可が取得できません。
具体的には、以下が欠格要件となります。
- 成年被後見人・被保佐人・破産者で復権を得ない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
- 廃棄物処理法等の法律に違反し、罰金以上の刑の処罰を受け5年を経過しない者
- 暴力団員又は暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者
許可後においても欠格事由に該当した場合、許可の取り消しなどの処分を受けることがあります。
許可取得のためのプロセス
産業廃棄物収集運搬業許可を取得するプロセスは、以下のステップに分けられます。
- 事前の準備として以下を計画します。
・収集運搬する産業廃棄物の種類と1か月に運搬する量を決める。
・収集する予定の排出事業者と排出現場の地域を決める。
・運搬する予定の中間処理施設を決める。
・計画した産業廃棄物を適切に運搬できる車両を準備する。 - 書類の準備をする。以下は千葉県の場合の例です。
・産業廃棄物収集運搬業許可申請書
・定款(法人の場合)
・登記事項証明書(法人の場合)
・住民票の写し
・登記されていないことの証明書
・事業計画の概要書(第1面~第5面)
・駐車場の所在図
・車両、容器等の写真
・駐車場に係る土地の登記事項証明書または賃貸借契約書等の写し
・講習会の修了証の写し
・事業の開始に要する資金の総額及びその資金の調達方法(様式6号の2(第8面))
・決算書(法人の場合)
・法人税の納税証明書(法人の場合)
・資産に関する調書(個人の場合)
・所得税の納税証明書(個人の場合)
・誓約書 - 産業廃棄物収集運搬業許可申請の予約をする。
ある程度書類準備の目途が立ったら申請の予約を行います。
千葉県の場合、申請の予約は一般社団法人千葉県産業資源循環協会で行います。
電話で申請の予約を行います。混んでいる場合は1か月以上先の申請日となることもあります。 - 申請と許可証交付
申請が無事に受理されましたら申請内容に対する審査が行われます。
問題が無ければ60日以内に許可が下り、許可証が交付されます。
収集運搬の実務
収集運搬業務の日常的な流れ
- 事前準備
・廃棄物の種類と量を確認し、適切な収集日と運搬車両を計画します。
・ビニールシートやフレコンバッグ等の容器など収集運搬に必要な道具準備し、車両の点検を行います。 - 収集作業
・排出現場で分類された廃棄物を車両に積み込みます。この際、液状または泥状であればドラム缶を用いるなど廃棄物の特性に応じた取り扱い方法で積み込みます。
・収集データ(種類、量、収集場所)をマニフェストに記録し、適切な文書管理を行います。 - 運搬作業
・廃棄物を計画された中間処理施設まで安全に運搬します。ルートは交通状況や安全性を考慮して選定します。
・運搬中は、廃棄物の飛散や漏洩を防ぐため、必要に応じてビニールシートで覆う等の措置を講じます。 - 中間処理施設での引き渡し
・中間処理施設に到着後、廃棄物を引き渡し、マニフェストを提出します。
・中間処理施設からの受領証を受け取り、マニフェストを更新します。
安全管理と環境保護のためのベストプラクティス
- 従業員教育
・定期的な安全教育と研修を実施し、廃棄物の適切な取り扱い方法や緊急時対応を徹底します。 - 車両と設備の管理
・車両と収集運搬に使用する設備の定期的な点検とメンテナンスを行い、故障や事故のリスクを最小限に抑えます。 - 環境保護措置
・廃棄物の適切な分類と保管、飛散防止措置を講じることで、環境汚染を防ぎます。
緊急時の対応策
- 事故発生時
・事故が発生した場合、直ちに関連する機関に報告し、現場の安全確保と初期対応を行います。
・事故の詳細を記録し、原因分析と再発防止策の検討を行います。 - 環境汚染事故時
・環境汚染が発生した場合は、速やかに汚染拡大の防止措置を講じ、関連機関に報告します。
・後処理と環境復旧に向けた対策を迅速に実施します。